【こす】と【ふたる】
両方とも標準語では「溢れる」の意味です。が、熊野には「こす」と「ふた
る」という、微妙にニュアンスの違う二つの言い方があります。ちょっと、聞
いてみましょう。
1 台風で増水。堤防から水が溢れ出し→→「水ゃ、こしてきたドー!!」
2 溝から田んぼに水を引いたままにして→→「あぜ、こしやるデ!」
3 大雨で大量の水が池に押し寄せて→→「池ゃ、こしまくりやる!」
4 風呂の蛇口を閉め忘れて→→「風呂の水がこしてきた」または「風呂、
ふたりやる!」
5 バケツに水が一杯となり、やがて→→「ふたって」きました。
6 鍋の煮物が沸騰→→「なべ、ふたってきたさか、火ぃ止めたてくれ!」
7 グラスに冷酒をなみなみと→→やがてふたって受け皿に。これはお酒が
「こしてきた」と雄大に表現すべきか。

大きな規模の溢れ現象が「こす」で、小さい規模のものが「ふたる」のよう
ですね。以上、日本語では全て「あふれる」です。

【せちがう】と【ごらす】
「せちがう」は叱る、「ごらす」は懲らしめるというのが、いわゆるひとつ
の熊野方言の解説のようです。本来はそういう教育的な意味を持つ言葉だった
のかも知れません。しかし、物事は度を越すと、せっかくの薬も毒になってし
まいます。

叱り過ぎたり懲らしめ過ぎたりすると、怒り過ぎ→ハラスメント→いじめ→
虐待→とエスカレートし、言葉の意味も変質してしまいます。私の知っている
「せちがう」と「ごらす」は、もっぱらこちらの意味合いで、「からかう」
「いじめる」「いたぶる」といった意味でした。

妹などを「可愛がって」いると、「コラ! そんなにせちがうな!」と怒ら
れました。なおも止めないでいると、「何べん、言うたらわかるんな! お前
は!!」と、本来の意味でせちがわれました。

言うことをきかない時の極刑は、離れの真っ暗い部屋に「たっつめられる」
ことでした。恐(おと)ろしかったデスね。お隣のうちからも、極刑を言い渡
されたいたずら坊主の、「もう、やらせんさかー!!」or「もう、しやせんさ
かー!!」という悲痛な叫び声が、冬の夜空を突いて聞こえてきたりして、こち
らもブルッたもんです。

ネコや池のコイを追い詰めたりしていると、そんな時は「ごらすな!!」と言われましたネ。
「せちがう」より「ごらす」の方が虐待度が高い響きがありました。

ま、その~~。イスラエルがごらすから、アラブがせちがうのか。アラブが
ごらすから、イスラエルがせちがうのか。まことにムツカシイ問題であります
が、両者をみていると、この言葉をついつい思い出してしまうんですナ。
北東アジアにも、人民をごらしたり、せちがったりしている困った将軍様が
いますね。いやいや、日本だってノー天気な官僚様が、民を「ごらして」いる
かもしれません。あやしいモンです。

そういえば、「ふくし(福祉)」や「ねんきん(年金)」という言葉も、そのうち、
「みんなでヒドイ目に遭うこと」なんていう意味に変質してしまうかもしれませんヨ、
アブナイアブナイ!!。 新宮弁では「わやヤダ!」→「さっぱりやゲ!」から
「アホか!」→「ばちきらるド!」etcと、だんだん怒りの言葉に変質していきます。

【はしかい】と【はばい】

これもよく似た言葉です。この言葉は、荒っぽいこと、おとなしくない様、
うるさ型、噛みついてくる様子、ケバイといった意味であると、本紙8号・新
宮弁講座3で紹介しました。
そうしたところ、「いや、私のとこでは『すばしっこい』とか『頭がエエ』
という、肯定的な意味もあった」という声をいくつか頂きました。狭い熊野国
内ですらこうです。(「はしかい」にはチクチクと痛痒いという意味も)

「はしかい」の意味を全国に見てみました。
福岡・ ずるい、抜け目がない
広島・ すばしっこい
島根・ 油断もスキもない、厭味な性格
滋賀・ 利口者
能登・ かしこい&かゆい
富山・ かしこい
伊豆・ かしこい
群馬・ すばしっこい、かしこい(はしっけぇー、と発音する)

こんな解説が散見されました。どこかで道を間違えたり、度を越したりして
意味が180度変わってしまったんでしょうか?。おもしろいですね。

なお、「はばい」はなかなか見当たりませんでした。鳥取・米子で、それに
近い意味の「はばしい」という方言を見つけただけでした。もしかすると貴重
な熊野オリジナル語かも知れません。
以上、似たもの編でした。

次回は「官能編」です。(あ~重いテーマや・・。もうダメ~~♪)

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