本宮大社、速玉大社を参拝したひとり旅の女は、熊野三山のもうひとつの聖地、熊野那智大社を目指します。浮島の森を見て王子が浜から高野坂へ向かえば、眼前には雄大な太平洋・熊野灘が見渡せます。

女  「なんて広い海なんでしょ。山の熊野も、海の熊野も確かに何かが違うワ。私も蘇らなくちゃ・・・」
佐野王子を経て那智の浜を望めば、一艘の木造船が今しも沖に向かっているではありませんか。数百年の時を経て再びこの世に現れた、補陀洛渡海船です。
女  「ま、何という厳しい修行ですこと。南無阿弥陀仏、ナムアミダブツ・・・」
 
 大門坂に辿り着きました。
那智の女 「あ、旅のお方。よかったらこれをどうぞ。私、今朝、これを作ってん」
 見ると、さんずを使ってしめられた勝浦産サンマで作られた「サンマ寿司」と、姫ひじきがふんだんに使われた「まぜごはん」が、差し出されていました。
女  「ありがとうございます。なんて親切な方なんでしょう」
那智の滝、那智大社、青岸渡寺を参拝して妙法山を見上げれば、熊野古道最大の難所と言われる「大雲取り越え」ルートが待ち構えています。女は苔むす石畳と、幾重にも連なる熊野三千六百峰を眺めながらつぶやきました。

女  「この峠を越えないと、私は一人立ちできないワ。つまづきながらでも歩かなくちゃ・・・」
 
舟見茶屋、地蔵茶屋で休憩をとり、今朝ほどいただいた「サンマ寿司」や「まぜごはん」を食べていると、ひとつだたら(大雲取越え伝説のお化け)やダル( 〃 )が目の前に現れては消えていきます。
女  「さすがに奥深い山ねぇ。杉や桧が多いけど、昔のままの自然が残っていたら、どんなに素晴らしいことでしょう」

石倉峠、越前峠を越えているうちに、いつしか太陽は大塔山の方角へと沈んで行きました。
女  「日が暮れないうちに、小口まで何としてもたどり着かなくちゃ。大丈夫かしら」
 円座石(わろうだいし)を過ぎると、小口の里はもうすぐです。
いつの間にかあたりは暗くなり、夜も更けてきました。月明かりを頼りに里に下りていくと、小口自然の家の管理人さんは起きて待っていてくれました。
女   「どうも、すみません。すっかり遅くなってしまって・・・」
管理人「いえいえ、慣れてますよ。それより明日、小雲取を越えれば、あなたも一人立ち出来ますね。今夜は、ゆっくりお休み下さい」
女   「どうもありがとうございます。熊野に来てよかった・・・」
 
♪涙の川を 何度も渡り
 女は強く なるという
 つまづきながらも また一歩
 熊野古道を峠越え
 歩き通した その時が きっと私の 一人立ち♪ (作詞/木下龍太郎・作曲/弦 哲也・歌/水森かおり)

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