ようやく秋本番といった季節になりましたが、みなさま如何お過ごしでしょうか。秋と言えば読書の秋。新宮市熊野川町出身の詩人・荻悦子さんの詩の世界に浸ってみませんか?

昨年、出版されたばかりの詩集「「樫の火」(思潮社)の中の一遍「紫」を紹介します。

 

自転車を折りたたんだ
硝子の水差しに水を満たした

人に伝えたいことを思いながら
何ということもない作業を重ねる

短い旋律が湧いてきた

丸く膨らんだ花
大きめの薊の花が色を失っていく

初めは冴えた紫だった
萼までが濃い紫だった

薊の花に水を注ぐ 注がない

ここでわたしが何をしないでも
あなたはすこやかに旅を終えるだろう

鮮やかな紫は目くらましだった
濃い紫が薄緑の茎の色に戻っていく

空が黄ばんだ灰色に変わった

薊を買ったのはあなたが住む町
その日ふと耳にした曲がつきまとう

地下街をもの憂く歩いていて
蛍光を帯びた紫に目を奪われた

太い雨がやってきた

重い速い雨の音があらゆるものを叩く
染料を吸い上げた花が窓際で乾く

長い棘だけがぴりぴり光る
激しい雨がこの空間を遮蔽する

荻悦子(おぎ・えつこ)
1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。

 

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