2021年2月18日 / 最終更新日時 : 2021年1月21日 tony 荻悦子 荻悦子詩集より~「空の球面」 空の球面 氷河の底が 光を湛えているだろう 碧色に盛り上がり ねじ曲がる 怒りと呼ぶには 済みすぎた魂 氷河に続く氷の原は どこまでも平らに見え 人がたったひとり 橇を牽いて歩いて行く その人がこちらを向き 微笑んでいる […]
2018年5月4日 / 最終更新日時 : 2018年5月4日 tony 文芸局 荻悦子詩集[「樫の火」より~「振り子」 振り子 ステンレスの格子戸が降りてきて、ベルが鳴り終わ った 居合わせた人たちは動きようがない 廊下の片側に扉が並んでいる 扉はみな閉ざされて いる フロアから内階段を降りた 踊り場をひとつ 経ると またフロアがあった […]
2018年4月10日 / 最終更新日時 : 2018年4月10日 tony 文芸局 荻悦子詩集[「樫の火」より~「祝福の木」 祝福の木 男に抱かれた黒い犬の目が私を射る 目が妙に光り 金色の環が生まれる 雑誌に載っている写真の中の 動かないはずの犬の目が光を放つ 犬は男の腕をす り抜ける ベランダの木の階段を降りてくる 顔を 上げ 光の矢を放ち […]
2018年3月14日 / 最終更新日時 : 2018年3月14日 tony 文芸局 荻悦子詩集「樫の火」~「春の来方」 春の来方 何人目かの来訪者がくれたのはくすんだピンク色の 缶だった ピンクの缶には絵や文字がなくて 中に カードが入っていた カードには花を咲かせた木が 描かれていた 枝ごとに花の形が異なり 何の花と もつかない花が鈴な […]
2018年3月10日 / 最終更新日時 : 2018年3月10日 tony 文芸局 荻悦子詩集「樫の火」より~「球花」 球花 松の花 初めから微小な球形をした粒の集まり 粟 の穂に似た黄色の穂 それが現われるのはいつだっ たか 裸木ばかりの冬の林に 高い松の木が傾いて 一本だけ立っていた 丘の上を歩きながらその木を 探して目が彷徨う 松毬 […]
2018年3月8日 / 最終更新日時 : 2018年3月8日 tony 文芸局 荻悦子詩集「樫の火」より~「家」 家 両親はドーナツ型の家に住んでいる 数日経ってよ うやく気づいた 向い合わせに窓があり あまりに も明るい室内 両方の窓際にベンチが作り付けられ ている 私は何気なくテニスボールをベンチに置い た ボールは転がって 両 […]
2018年2月17日 / 最終更新日時 : 2018年2月17日 tony 文芸局 荻悦子詩集「樫の火」より~「スープ」 スープ 娘がスープを作ります それは丁寧に本格的に作る のです レンガの壁を背にして おごそかな口調で 翠さんが言った 大きな鍋には既に何かがたぎって いる 翠さんの娘はその中に刻んだベーコンを入れ た 厚みのあるベーコ […]
2018年2月15日 / 最終更新日時 : 2018年2月15日 tony 文芸局 荻悦子詩集「樫の火」より~「終わりの夏」 終わりの夏 従妹はバッハばかり弾いていた 少し速いんじゃない 指が心持ちゆっくり鍵盤から離される 私は花瓶を持ち上げる シチリアのことはよく知らなかったが 波の中に島の形が浮かんで消えた 断崖の上に緑の土地が […]
2018年2月14日 / 最終更新日時 : 2018年2月14日 tony 文芸局 荻悦子詩集「樫の火」より~「低く飛ぶ蝶」 低く飛ぶ蝶 狭い側溝の中で 薫色がちらちらした 小さな蝶 小刻みに飛行をくり返し 翅を閉じると 斑点のある灰褐色 側溝の上の生垣に白いアベリアが咲き 明日も低く飛ぶだろう しじみ蝶 黄昏の目で辺りを見て […]
2018年1月15日 / 最終更新日時 : 2018年1月15日 tony 文芸局 荻悦子詩集「樫の火」より~「失くしたもの」 このところ寒い日が続いておりますが、皆さまお変わりありませんか。荻悦子ファンの方、お待たせいたしました。新年初めての詩の紹介です。今回は、詩集「「「樫の火」(思潮社)」の中の一遍「失くしたもの」です。 失くしたもの 失く […]